my letter to the world
『世界にあてたわたしの手紙』

この作品はもともとアルテ・オーパー(Alte Oper Frankfurt) からの委嘱で書かれたもので、歌とピアノの曲。委嘱の条件はロマン派時代から詩を選ぶ事、声はソプラノ、メゾ・ソプラノかバリトン。
その時は丁度僕にとって初めてとなるオペラ『ソラリス』を作曲開始する準備段階でした。それまではソプラノやメゾには曲を書いた事があるものの、バリトンの作品は書いた事が無かった。
その上、オペラ『ソラリス』の主人公はバリトン歌手。これは良い機会だ、と思い、即バリトンとピアノで、と僕は委嘱者側にリクエストした。(後で分かったのだが、なんとこのプロジェクトのバリトン歌手と『ソラリス』の歌手が、たまたま同じ歌手がブッキングされていた、という!)。
それにピアノと歌、ピアノと楽器、という組み合わせは僕は一番好きではない。古典作曲家でこの組み合わせの音楽も嫌いだ。あえて自分が好きじゃない事をする、というのは僕のモットーでもあり、それをすることで発見があるので、それも良い機会だと思った。

ロマン派時代に書かれた詩も、そこまで僕は詳しくなかった。「初めて」という事が重なるプロジェクト。僕としてはこういう事が起こると、勉強できる良いチャンス! と思ってうれしくなり、即この委嘱を承諾し、まずは詩を探す所から始めた。
沢山詩を読んだ中から、僕が特に気に入ったのがディキンソンとブレイクの詩。オペラ作曲を控えてバリトンの声を扱う良い機会だ、と思い、今回は全く作曲の方法が違う6つの小さな歌曲集にしようと思った。

この作品のフランクフルトでの世界初演中、僕はこのピアノの部分はオーケストラに向いてる! と思い、名古屋フィルのコンポーザー・イン・レジデンスのお話を頂いたときに提案した数多くの案の一つだった。

6曲、全く違う作品。1曲目はダイナミックな始まり、ピアノだと自然に起きる音の衰退をオーケストレーションしてみた。その後半部はそれの反転(音の増幅)で曲が終わる。2曲目のブレイクの赤ちゃんを題材とした作品はオーケストラの部分は軽く、可愛く、まだ歩かないけどもうすぐ歩くだろう小さな子供の足音などを想像して、歌のメロディの周りを走り回るような感じ。歌手への指示も「小さく、ささやく感じで」。3曲目はこの曲集の中で一番最初に書いた作品。とてもオペラ的な曲。歌の部分は 詩を友人に朗読してもらい、その英語のイントネーションをコンピュータで分析して、それをどうやって音楽的に、しかも歌声として変化させられるか、というのを行なった。それでいて自由で音楽的なメロディを目指して。4曲目はいたってシンプル。オーケストラの部分は歌のメロディを水面に描いた時にできる波紋。5曲目は、オーケストラの部分は「伴奏」に徹した音楽。これは声の深いポップシンガー(さて僕は誰を想像しているでしょう?笑)を想像して書いてみた作品。6曲目は歌曲の最終曲に適さなそうな、わざと? で終わるような作品にしてみた。

シンプルに見えて、曲も短いのに、なんだか大きなオペラが凝縮したような作品だね、とピアノとバリトン版の世界初演をした人達も言っていたが、今回オーケストレーションして一つ一つの音色がもっと効果的に出るのではないか、と期待しています。

藤倉大



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