Past Beginnings Extended


ここ最近は、ピリオド楽器のための作品を書く機会が多かった。チェンバロのための作品、フラウト・トラヴェルソ協奏曲、ナチュラルホルンのための作品、ヴィオラ・ダ・ガンバのための作品などだ。

落合陽一さんからツィッターのメッセージで、「フォルテピアノ奏者の小川さんを紹介してもよろしいでしょうか」とメッセージをもらったことがきっかけで、小川加恵さんからこの作品の委嘱に関するお話しをいただいた。フォルテピアノということで、僕は大変興味が湧いた。
というのも、個人的なピリオド楽器ブームの中で、フォルテピアノのための作品は今回が初めてだったからだ。フォルテピアノとは何なのかを勉強する貴重な機会となった。

小川さんは、最初から壮大なプランをお話しになった。「落合さんのメディアアートに、ロボットアームの・・・」この辺りで僕の集中力は切れるのではなく、むしろフォルテピアノという僕にとっては不思議な楽器への興味が強くなった。いわゆる「普通のピアノ(モダンピアノ)」とは何が違うのか。
全員集合のZoomミーティング中も、こっそり小川さんが用意してくださった楽器の歴史、楽器の説明のPDFのページばかり僕は別画面で読んでいた(一応皆さんの会議中の会話を聞いているふりをして、うんうん、と頷くのは僕の得意技だ)。

壮大なプランの作品を作曲する作業へどっぷり入るというより、まずはフォルテピアノの作品を作りたいと思った。そうして、この作品の姉妹作品である5分くらいのフォルテピアノ・ソロ作品《Past Beginnings》が生まれた。2022年の夏には、サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデンで小川さんの演奏により世界初演された。
《Past Beginnings》は、フォルテピアノを研究しまくって創作した作品。ペダルの残響がモダンピアノと全然違うこと、「モデラートペダル」というフォルテピアノ特有の機能があり、これらのペダルは、足で踏まれるのではなく、膝で押し上げられるということも初めて知った。僕は、小さな子が玩具屋さんに入って「好きなものがあったら、なんでも買ってあげるよ」なんて言われたように(実際は僕の親は大変厳しく、そんなことは一回も言われたことはなかったが)、新しく知る楽器に夢中になった。

この《Past Beginnings》を元に、今回のコラボレーション作品を作った。タイトルは、《Past Beginnings Extended》。この作品を使ってジャンルの異なる3人のアーティストがパフォーマンスする。僕は、日頃からいろんなアーティストとコラボレーションしている。歳を取るごとに、精神的にやり易く、スムーズにできるようになって来たと思う。僕の経験上、コラボレーションの機会では、自分の音楽を楽譜上でガチガチに作り上げない方が良いということがわかっている。卵焼きに例えるなら、ゴムみたいにカチカチに焼くのではなく、ちょっと中は半熟かな?くらいに止めておく。他のコラボレーター達が揃ったリハーサルで、誰も妥協しなくてもいいように、多いに音楽を満喫して全体像を作り上げられたらと思う。そんな思いで、今はリハーサルがどう始まるのか、そして2日間に渡る世界初演がどのようなパフォーマンスになるのか、とても楽しみだ。

2022年9月 藤倉 大