My letter to the world
『世界にあてたわたしの手紙』 (ensemble version+Japanese version)


この作品はもともとアルテ・オーパー(Alte Oper Frankfurt)からの委嘱で書かれたもので、バリトンとピアノの楽曲です。委嘱の条件はロマン派時代の詩を選ぶことでした。ロマン派時代に書かれた詩については、正直に言ってあまり詳しくありませんでした。僕としてはこうした機会は勉強になると思い、喜んで委嘱を受け入れ、ますます詩を探し始めました。
数多くの詩を読んでいく中で、僕が特に気に入ったのはディキンソンとブレイクの詩でした。今回、僕は異なる方法で6つの短い歌曲を作成することを考えました。
この楽曲はその後、ピアノのパートがオーケストレーションされ、バリトンとオーケストラの作品になりました。

それを聞いたアンサンブルノマドの佐藤紀雄さんが、「これをアンサンブルとバリトンに編曲できないかな?」と提案してくださいました。そして、編曲委嘱をしてくださいました。
その後、ソプラノで歌うことは可能かな?と言われました。実は、以前にピアノ版でソプラノで歌いたいという歌手がいたことから、ソプラノとピアノ版がすでに存在していたので、理論的には可能だろうと思いました。

そこで、今回は日本で演奏されるこのソプラノとアンサンブル版。せっかくなので、日本語版を作成しようと思いました。

僕の2つ目のオペラ「黄金虫」では、英語、ドイツ語、フランス語のヴァージョンが存在します。元は英語で書かれたオペラ。その時に体験したのですが、歌の部分の歌詞を異なる言語に翻訳することは非常に困難です。今回は敢えてそれに挑戦してみたいと考えました。
そのため、今回のソプラノ版を歌うことになった、また僕の友人である小林沙羅さんのご紹介で、翻訳家の早坂牧子さんにお願いすることにしました。
とは言っても、僕と沙羅さんは翻訳が完了するのを待っているわけではありませんでした。早坂さんが翻訳したものに僕も意見を出しつつ、新しい言葉などを提案しては、また早坂さんと相談する。そしてそれを沙羅さんが歌ってみてもらい、そしてみんなで話し合ってみる、という感じで時間をかけ、多くのメールのやりとりで進めていきました。早坂さんの忠実な文学の視点からの翻訳から、早坂さんからは「藤倉さんの訳詞は、大胆でありつつ原詩の世界観をきちんと伝えており、発声されたときも自然に聞こえる言葉づけになっていると思いました」という反応をいただいたり、僕自身、多くのことを学びました。

このようなコラボレーションは非常に楽しいものです。

6つの異なる楽曲でありながら、一曲目はダイナミックに始まり、ピアノから自然に減衰する音をオーケストレーションしました。そして、後半部はその逆転(音の増幅)によって曲を締めくくりました。二曲目はブレイクの赤ちゃんを題材にした作品で、オーケストラの部分は軽やかで可愛らしく、まだ歩かないけれどもすぐに歩くだろう小さな子供の足音などを想像し、歌のメロディの周りを駆け回るような感じです。三曲目はこの曲集の中で最初に書かれた作品で、非常にオペラ的な曲です。歌の部分は、詩を友人に朗読してもらい、その英語のイントネーションをコンピュータで分析し、それを音楽的に、かつ歌声としてどのように変化させるかを考えました。それでも音楽的で自由なメロディを目指しました。四曲目は非常にシンプルで、アンサンブルの部分は歌のメロディを水面に描いたときに生じる波紋のようなものです。五曲目はアンサンブルの部分が「伴奏」としての音楽に専念しています。僕はこの曲を書く際、声の低いポップシンガーを想像して作曲しました(さて、僕は誰を想像しているのでしょうか?笑)。そして、六曲目は歌曲の最終曲に相応しい、わざと終了するような作品に仕上げました。

これらの曲はシンプルに見えるかもしれませんが、曲自体は短いですが、それぞれが大きなオペラが凝縮されたようなものです。ピアノとバリトン版の初演を行ったアーティストたちも同様の感想を持っていました。今回のオーケストレーションでは、一つ一つの音色がより効果的に表現されることを期待しています。
藤倉大