Vanishing Point
僕にとって曲を作る時は、映画のロケーション選び、キャスティング、あと編集によってどうやって緊張感の高い物語が作れるか……というのに似ているのではないかと思います。
この作品を書こうと思っているちょうどその時に、少し前に書いた打楽器ソロの「BE」という曲の初演がありました。その曲は奏者が両手に弓を持ってクロタイルとヴィブラフォーンを弾くところから始まります。それを客席で聞いていた時に、弦楽器とこの打楽器の弓で弾く音を絡ませてはどうだろうか、と思いこの作品を書き始めました。
弦楽器は最初はこの打楽器らと一緒に高音の、ヒヤッとした感じの、(僕の中ではどちらかと言うと氷でできた牢屋と言う感じ)のテクスチャーを作るのを手伝いますが、だんだんそこを蹴破って自由になりたい…と
だんだん打楽器のその「氷」のテクスチャーに反発し始めます。その時弦楽器はロマン派の音楽のようにヴィブラートつきで弾きますが練習用ミュートによってフォルテを弾いているのにもかかわらずその音が押し込められてしまいなかなか「自由」になれません。
もう一つの「脱出」の手として弦楽器はピッチカート、コル・レーニョなど、打楽器っぽい弾き方をして、弦楽器のように演奏される打楽器群の音に立ち向かいます。木管、金管楽器などまだどっちの味方をしようか迷ってる状態なので時には打楽器に、時には弦楽器のピッチカート、コル・レーニョをサポートします。
この弦楽器のセクションがどうやって逃げ切るか、と言うところが書いている時とても楽しかったです。一度一つのキャラクターを閉じ込めるというのは、ベルトルッチの映画にもよく出てきますよね。「コンフォルミスタ」(暗殺の森)の最後(車のシーン、暗殺される森に入る前)、それから最後以外始終主人公が閉じ込められている作品「ラスト エンペラー」などなど。
この二つの素材がだんだん発展して行き、今やっているテレビの番組全てを一度に見ようとチャンネルをガチャガチャとかえるように曲の雰囲気がどんどんと変わっていきます。
だいたいすべての音楽の素材の性格が分かってきて、大体どうそれらが発展して、曲そのものが発展するのかなと考えていくのは大変楽しいです。


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